物語

七つの瞬間を、ふたつの側から聴く。

2020

2020年秋

CARD · 関係No. 001

2020年秋

返されなかったメッセージ

既読になったのに、返事はなかった。その二文字は画面の上で、とても軽くて、とても重かった。あとからわたしは、言葉を短くすることを覚えた。そうすれば、誰かを必要としているように見えないから。あなたはもう、わたしの話を聞きたくないのだと思っていた。

ふたつの声 · 封印済み秋二〇
From Nora

あのメッセージを、長いあいだ読んでいた。返信欄に言葉を打っては消し、最後には何も残らなかった。どうでもよかったからではない。口を開いたら、自分の混乱まであなたに流し込んでしまいそうで怖かった。あの夜、スマホはずっと枕元に置いていた。

2021

2021年夏の終わり

CARD · 関係No. 002

2021年夏の終わり

引っ越す前に置いていった鍵

玄関の小皿に、その鍵を見つけた。あなたは何も書き残さず、わたしも何も聞かなかった。その瞬間、あなたは戻ってこられる道をすべてわたしに返したのだと思った。だから、もう邪魔をしなかった。あの小皿は、その後ずっと空のままだった。

ふたつの声 · 封印済み夏の終わり
From アラン

鍵を置いていったのは、離れることを断ち切ることにしたくなかったから。わたしはただ、ここでどう続けていけばいいのか一時的にわからなくなっていただけだった。あの日、あなたがひと言たずねてくれるのを待っていた。でもあなたは、ただうなずいただけだった。

2022

2022年冬

CARD · 関係No. 003

2022年冬

コンロの上に残っていた温かいスープ

その日、家に着いたのはとても遅く、靴には雪解けの水がついていた。心配させたくなくて、事前に電話はしなかった。あなたはもう眠っていて、台所にはまだ温かいスープがあった。わたしは小さくありがとうと言った。言っていないのと同じくらい、かすかな声で。

ふたつの声 · 封印済み冬二二
From お母さん

あなたがあまり聞かれたくないのはわかっていたから、その夜は何も聞かなかった。スープを何度か温め直して、最後は居間で眠ってしまった。あなたが入ってきたとき、実は起きていた。ただ、帰ってすぐにまた説明しなければならない人に、あなたを戻したくなかった。あのありがとうは、聞こえていた。

2023

2023年春

CARD · 関係No. 004

2023年春

会議のあとの冗談

会議のあと、あなたは笑いながらあのひと言を言って、みんなも笑った。わたしも少し笑った。でもその後しばらく、発言する前に、また真面目すぎると思われないかを考えるようになった。あなたはたぶん知らない。あの日から、わたしがチームで話す言葉はずいぶん減った。

ふたつの声 · 封印済み春二三
From 周予

あの言葉を口にした直後、本当は少しまずいと思った。でもみんなが笑ったから、そのまま笑いに紛らせて、言い直さなかった。会議であなたがだんだん静かになっていくのを見て、あれは勝手に過ぎていく小さなことではなかったのかもしれないと気づいた。

2024

2024年夏

CARD · 関係No. 005

2024年夏

最後に一緒に見た花火

あの夜、花火はとても近くて、あなたはほとんど話さなかった。疲れているだけだと思って、わたしも深く聞かなかった。その後あなたが別の街に引っ越してから、あれは、わたしに気づいてほしかった別れだったのかもしれないとわかった。

ふたつの声 · 封印済み夏二四
From 小雨

あの日、もう引っ越すことを決めたと伝えたかった。でもあなたが、花火きれいだねと言った瞬間、その言葉をどこに置けばいいのかわからなくなった。少しは気づいていると思っていたし、聞いてくれるとも思っていた。あなたは聞かなかった。だから、最後まで一緒に花火を見た。

2025

去年の冬

CARD · 関係No. 006

去年の冬

言えなかった、ありがとう

あの頃、あなたは毎日ついでのようにコーヒーを買ってきて、机の端に置いてくれた。何も深くは聞かなかった。わたしはちゃんとありがとうを言わなかった。言えば、自分がその頃本当に薄く持ちこたえていたことを認めることになる気がした。言えなくても、伝わっていると思っていた。

ふたつの声 · 封印済み去年冬
From Lin

コーヒーを買っていったのは、それ以外に何ができるのかわからなかったから。あなたはいつも大丈夫と言うから、深く聞くのも怖かった。感謝してほしかったわけではない。ただ、毎朝少なくともひとりは、あなたが氷少なめを好きだと覚えていると知っていてほしかった。

2026

今年の春

CARD · 関係No. 007

今年の春

玄関先で言えなかったひと言

あなたが帰るたびに、わたしは心の中であの言葉を練習していた。ドアが閉まるたびに、また飲み込んだ。次があると思っていた。もっといいタイミングがあると思っていた。あの日、あなたは玄関で少しだけ立ち止まった。それでもわたしは、言わなかった。

ふたつの声 · 封印済み今年春
From Lena

あなたが何か言いかけた気がして、少し遅れて振り向いた。もう顔をそらしていたから、わたしも気づかなかったふりをした。その後ずっと思っている。あの半秒、もう少しだけ待っていたら、わたしたちはその言葉を今まで残さずにすんだのかもしれない。